自営業・個人事業主の自己破産 事業継続の可否やポイントを解説
法人破産自己破産自営業・個人事業主の方も、会社員の方と同じように自己破産をすることは可能です。
しかし、会社員の方は自己破産をしても仕事にほとんど影響はありませんが、個人事業主の方は場合によっては事業継続が困難となります。
本コラムでは、自営業・個人事業主の方の自己破産のポイントと事業継続が可能な場合、難しい場合について解説いたします。
目次
事業の借金もプライベートの借金も対象になります
個人事業主も自己破産が可能です。
この場合、事業のための借金も、プライベートの借金もすべて自己破産の対象になり、免責が認められればこれらすべての借金が免除になります。
しかし、税金や社会保険料、養育費は免除されません(非免責債権といいます)。この点は会社員の方と同様です。
原則として管財事件になります
自己破産の手続きには大きく分けて2種類あり、ごく簡単な手続きである同時廃止事件と、破産管財人による調査がされる管財事件があります。
個人事業主の自己破産は、原則として管財事件となります。
事業をしている方は、事業上の財産があったり、売掛買掛などお金の出入りが複雑であったりして、会社員の方より確認すべき事項が多くあるため、破産管財人を選任してその調査を行う必要があるからです。
しかし、一口に個人事業主といっても、その規模や形態は千差万別です。
次のように会社員に近い条件で働いている方については、管財事件ではなく、同時廃止事件として破産できる場合もあります。
・事業上の在庫や設備がない
・従業員がいない
・事業上の契約(事務所の賃貸借契約など)がない
・取引先が1社またはごく少数で、給与に近い形で報酬を受け取っている
例えば、日当で働いている職人さん、自宅で一人で仕事をしているweb制作者の方、業務委託で仕事を請け負っている宅配業の方(配送車が自己所有でない場合)などです。
管財事件の特徴
管財事件には同時廃止事件とは違う次のような特徴があります。
・中立の立場の弁護士が破産管財人に選任されます。
破産者は破産管財人に協力する法律上の義務を負っていますので、破産管財人の調査に真摯に対応する必要があります。
・自己破産申立て後から郵便物が破産管財人に転送され、内容を確認されます。
財産や債務の調査の一環です。
・引っ越しには破産管財人の同意が必要になります。
・管財人の報酬として、引継ぎ予納金(最低金額20万円)が必要になります。
事業を継続できない場合、できる場合
事業を継続できない場合
個人事業主が自己破産をした場合、事業のための在庫や設備は原則として処分されます。
処分の対象となる財産
・在庫や材料
・事業上の設備や機械
・売掛金
※事業上の機械や道具などでも、すでに経年劣化しているなどして換価価値がないものは手元に残せる可能性があります。
また、事業のための契約も解除しなくてはなりません。
解除の対象となる契約
・事務所の賃貸借契約
・従業員との雇用契約
・車や機械設備のリース契約
この事業上の財産処分と契約解除のために、事業継続が困難となってしまうことが多くあります。
具体的には、事務所を借りて人を雇ったり、一定程度の設備や在庫を持ったりしている場合には事業継続は困難といえるでしょう。
このように事業継続が困難な場合には、会社の破産の場合と同様に、自己破産申立前に事業に関する契約を解除したり、事業上の財産を適正に処分したりする必要があります。
この時の各種処分は公正に行う必要があるため、個人事業主や会社の破産に詳しい弁護士に相談しながら進めていくことをお勧めいたします。
事業を継続できる場合
前述のとおり、個人事業主の破産で問題になるのは、事業上の財産処分と契約解除です。
そこで、処分が必要となるような事業上の財産がなく、かつ、解除されるような事業上の契約がない個人事業であれば、継続することが可能です。
具体的には、会社員と同じような働き方の方、体一つ、腕一本での働き方の方、資産も事業上の契約もない在宅ワークの方などです。
当事務所で事業継続が可能だった個人事業主の例
清掃業
一つの取引先から下請けをしていた方。
清掃用の機械は古く、価値がなかったため、処分不要とされました。
建築業
一人親方で、ほぼ特定の会社の現場で働いていた方。
工具類は古く、価値がなかったため、処分不要とされました。
HP制作業
在宅ワークで、単発契約の仕事を請け負っていた方。
作業用のPCは価値が20万円以下であったため、処分不要とされました。
宅配業
一つの取引先から業務委託を受けていた方。
配達用の車両は取引先から貸与されたものを使用していたため、処分すべき財産もありませんでした。
事業を続けたい場合の方策
まず事業を続けるべきかを検討してください
「自己破産をしても事業を継続したい」と考える個人事業主の方は少なくありません。
しかし、そもそも事業を続けるべきかどうかについては慎重に検討する必要があります。
借金の原因がその事業の経営不振である場合には、さらに事業を継続することでまた新たな借金を負ってしまう可能性があります。
二度目の破産は難しいこともありますので、継続したい事業の経営の見通しについて冷静に検討してください。そして、やはり難しいとの結論に至った場合には、いったんその事業をたたむことも必要かもしれません。
任意整理や個人再生を検討する
事業上の財産や契約があって、自己破産をすると事業が継続できない場合には、任意整理または個人再生が選択肢となります。
任意整理を選択する
任意整理は、債権者と交渉して借金を3年から5年の分割で支払う方法です。
任意整理では、財産の有無やその価値は問題になりませんので、そのまま維持できます。
借金がカードローンやショッピングローンである場合には、任意整理後の支払いが無金利となりますので、任意整理は大変有益な手続きです。
しかし、借金の元金を減らすことはできないので、すでに多額の債務がある場合には毎月の返済額が高額となってしまいますので、支払っていける金額かどうかを慎重に検討する必要があります。
個人再生を選択する
個人再生は、100万円、債務の5分の1またはご自分の財産をすべて換金したと仮定した場合の金額(「清算価値」といいます)の3つのうち一番高い金額を、3年から5年の分割で支払う方法です。
債務額も事業上の資産もさほど高額ではない場合には、個人再生は非常に有益な手続きです。
逆にいえば、多額の債務があり、仮に5分の1になっても返済が困難な場合には個人再生は認められませんし、事業上の資産が高額のため清算価値が高額になって返済が困難となる場合にも個人再生は認められません。
個人再生にはそのほかにも詳細な要件が定められていますので、個人事業主の個人再生に詳しい弁護士に相談されることをお勧めいたします。
まとめ
自営業・個人事業主の方が自己破産をすると、事業上の財産処分や契約解除のために、事業を継続できない場合が多くあります。
ただ、会社員と同様の働き方の個人事業主の方、事業上の財産や契約がない個人事業主の方は事業を継続できる可能性があります。
また、自己破産では事業継続が困難な場合には、任意整理や個人再生という別の手段もあります。
当事務所では、自営業・個人事業主の方の自己破産や個人再生を数多くお手伝いしてきました。破産管財人の経験も豊富にございますので、裁判所が自営業者の破産で重視している点についても熟知しております。
事業継続の可否の判断、個人事業のたたみ方、個人事業継続のための個人再生手続きなどにも精通しておりますので、借金問題にお困りでしたら、ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。
当事務所では、相続、離婚などの家事事件、多重債務問題、児童虐待問題を中心とした子どもの福祉に関する問題を主にお受けしております。みなさまに来ていただき、お話しいただき、そしてほっとしていただける場所となることを目指して、心を込めて丁寧に対応しております。どうぞお気軽にご相談ください。